米国の航空会社は、間もなく、実際の気象条件によらず、バーチャルな晴天を創り出す電子的な視覚支援装置を使用する「有視界飛行と等価な運航」の時代に一歩近付くことになる。
連邦航空局(FAA)は、2004年にジェネアビ向けに発行したEnhanced Flight Vision System(EFVS)に関する規則を大幅に近代化する規則を2016年11月に発行した(注:Federal Registerには2016年12月13日に掲載された。)。2004年の規則では、運航者は、直線計器進入を行う際に、前方を向いた赤外線(IR)センサーによる画像及び航空機を誘導する一定のシンボルをヘッドアップディスプレイ(HUD)に表示させるEFVSを、高度100フィートまで目視による外部監視の代わりに使用することができた。
ほとんどの精密進入において、高度200フィートにおいてパイロットが滑走路を目視により確認できなければならないことから、EFVS非装備機が目的地を変更しなければならない場合であっても、EFVSを装備した航空機は着陸できるというメリットがあった。FAAは、2004年以降、982機の航空機(その大部分が大型ビジネスジェット機)にEFVSが装備されたと推定しているが、例外的にFedExがダグラスMD-11型機、ボーイングMD-10型機、757型機、767型機及び777型機並びにエアバスA300型機及びA310型機において使用している。一般的なEFVS関連機器一式の価格は、1機当たり100万ドル程度である。
2017年3月に施行される新しい規則では、航空会社、エアタクシーにおいてEFVSの利用を拡大するとともに、EFVSの利用範囲を着陸及び着陸後の滑走まで拡大することによって大きなメリットが生ずると見込まれる。新しい規則では、2004年の規則には含まれていなかったEFVSを使用した進入を行うパイロットに対する訓練の基準も追加されている。
「EFVSによる視程のアドバンテージ」がフィートで表されることもよい点である。航空会社は、公示された進入のための最低気象条件からEFVSによる視程のアドバンテージを差し引いた、いわゆるEFVS最低気象条件を適用することができる。一般的なカテゴリーI(CAT I)計器着陸システム(ILS)進入において、進入に必要な最低の視程が2,400フィートであり、EFVSによる視程のアドバンテージが1,000フィートである場合には、通報された視程が1,400フィートあれば進入を行うことが可能となる。FAAは、初期段階においてはEFVSを用いた場合の最低の視程を1,000フィートとし、運航者が経験を積み、電子画像装置が成熟した際にこれを引き下げる計画である。
EFVSの証明に当たっては、視程のアドバンテージを決定するために、特定の気象及び視程の条件下で50回以上の進入及び5回以上の復行を行う必要がある。FAAの運航基準担当部署は、2つの異なる空港における視程0.5マイル以下の条件で行われた20回の進入の結果等に基づいて、EFVSによる視程のアドバンテージを決定する視程のアドバンテージはコックピットの外の視程とHUDに映されたEFVSによる視程の差で計算される。FAAは、地上試験によりこれを計算することが可能であるかどうか検討を続けている。
承認されたEFVSを使用する航空会社は、視程のアドバンテージによって、予報され、又は通報された目的地の空港の視程が、行おうとする進入方式に必要な下限を下回っている場合に航空機を出発させ、又は計器進入を開始することができない「アプローチバン」を考慮する必要がなくなる。この基準は、2018年3月から施行される。
適切な装置を装備した航空機は、地上施設を用いたより精密な進入によって外が見えない気象条件下であっても着陸することができるが、そのような進入方式よりも、一般的に雲底が200フィート以上であり、視程が0.5マイル以上でなければならないCAT I ILS進入、人工衛星を利用したLocalizer Performance with Vertical Guidance(LPV)進入又は航法精度要件のある進入(RNP進入)の方が、設定されている方式の数が多い。カテゴリーII及びカテゴリーIIIのILS進入により、より雲底が低く、視程が短い気象条件下での着陸が可能となるが、航空機及び空港に対する要件が厳しくなり、空港の処理容量は低下する。EFVSを用いることによって、FAAは、航空会社がほとんど全ての気象条件下で、様々な進入方式を用いて航空機を着陸させられるようになり、空港処理容量が晴天時と同様に保たれるようになることを思い描いている。
現在、最も高性能のEFVSによる視程のアドバンテージは、低高度においておよそ1,000フィートであるが、業界の関係者は将来的にさらなる改良が行われると確信している。
また、今回発行された規則では、合成視野(地形及び障害物のデジタルデータベースに基づく前方の三次元画像)をEnhanced Vision System(IRカメラ、レーダーその他の未来的な装置)による画像に融合させ、飛行の全フェーズにおいて、パイロットの状況認識を向上させるとともに、航空機の誘導を改善することができるCombined Vision System(CVS)をEFVSの一部とすることが可能である点も重要である。さらに、ヘッドマウントディスプレイのような、まだほとんど証明されていない新しい装置の利用も念頭に置かれている。(Aviaion Week 170110)