Honeywellは、2016年6月18日にオーストラリアで発生した急患輸送用のピラタスPC-12型機のインシデントを受けて、HoneywellのSVS(Synthetic Vision System:コンピューター画像によって操縦室の前方の外界の様子を再現し、表示する視覚支援システム)を「より強固なものとする」ための調査を行っている。
このPC-12型機には、Honeywell製のPrimus Apex統合アビオニクスが搭載されていた。
オーストラリア運輸安全局(ATSB)が作成したこのインシデントについての報告書は、SVSがジェネアビ機及びビジネス機のみならず、将来的に航空輸送部門においても利用されるなど、一般的になりつつあることから、航空業界の幅広い関係者の関心を集めている。
ATSBによると、このインシデントの概要は、次のとおりである。
2人のパイロット及び看護師が搭乗したPC-12型機が、月明かりの中、オーストラリア西部のParaburdooに向けてMeekatharraを離陸した。
離陸から18秒後、速度110ノットで250フィートを上昇中に当該機の電波高度計が故障し、電波高度の指示が0フィートに戻ったため、SVS(外界の様子を再現するために、滑走路及び障害物に関するデータベースの情報に加え、電波高度計を利用する。)によって両パイロットのプライマリーフライトディスプレイ(PFD)上に表示されたバーチャルな地表が「素早く」上方に移動した。
パイロットは、これに対処するため、操縦輪を引き、機体を上昇させようとした。
モニター担当のパイロットが外を見て、機首が上がりすぎていることに気付き、操縦担当のパイロットに注意喚起したため、この状況は解消された。
SVSは、当該機が850フィートを上昇中に復旧した。
インシデントの間、電波高度計の故障に関する警報及び注意は表示されず、航空機に装備されている対地接近警報装置による音声による注意喚起もなかった。
報告書には、両パイロットは、Primus Apexに関する運用マニュアルにSVSを操縦操作又は航法に用いてはならないと警告されていることを認識していたが、調査官に対して「SVSによって合成された画像が目立つことから、誤った情報を無視し、有効な情報を見付けることは容易ではない」と証言したと記されている。
このインシデントにより、SVSによる画像をPFDに表示させる場合における故障に対する訓練を改善する必要があることが明らかとなった。航空輸送部門についていえば、主要なメーカーの全てが、航空機が異常な姿勢となることを防止するために、三次元のバーチャルな外界の様子を風防上に表示することを検討している。
今回のインシデントにおいては、パイロットが予備の姿勢ディスプレイの代わりにSVSによる画像に頼ったことから、SVS自体が異常姿勢の大きな要因となったと考えられる。
Honeywellは、2016年8月にパイロットに対する注意喚起のレターを発行し、事案の概要を説明するとともに、SVSを状況認識の向上の目的でのみ使用し、「ピッチ角、ロール角、ヨー角又は高度を表示するPFDの代替となる姿勢又は高度の表示」として使用しないよう注意喚起した。
(Aviation Daily 170201)