高高度におけるエンジンコアへの着氷現象についての理解は進んできたが、パイロットに危険を知らせる信頼できるセンサーシステムの開発については、始まったばかりである。
低高度及び中高度の雲等の中で発生する液体の水によるエンジン及び機体への通常の着氷とは異なり、エンジンコアへのアイスクリスタルの蓄積に繋がる状況は、現在の気象レーダーでは検知することができない。さらに、しばしばアイスクリスタルの存在をパイロットに気付かせることのある静電気の帯電及びコックピットにおける騒音の変化が認められるのは、危険が生じるおそれがある空域を避けるためには遅すぎる。
ターボファンエンジンのガイドベーン及びコンプレッサーの表面にアイスクリスタルが蓄積すると、推力の喪失、エンジンの停止、そして場合によってはエンジンの破損に至ることがある。特に世界でも航空交通量の増加率が高い亜熱帯地方でアイスクリスタルが存在する空域に突入する事案が増化している中、アイスクリスタルを検知できるように気象レーダーを改良するための研究が、米国航空宇宙局(NASA)を中心に行われている。
エンジンそのものへの着氷を警告するセンサーの研究も行われている。Podium Aerospaceは、光の反射率によって着氷を検知する反射材センサー(RMS)システムの詳細を明らかにした。
Podium Aerospaceの親会社であるPodium Energy Corp.のJefferson Adler CEOによると、この可動部品を使わないソリッドステートのセンサーは、カナダのNational Research Councilが開発している超音波及び静電粒子プローブを用いるセンサーよりも単純で、丈夫であるという。
Podium Aerospaceのシステムは、エンジンケースに設けられた小窓からガスパスに光を照射する2個の発光ダイオード(LED)を用いており、氷の粒子が小窓の表面に蓄積されると、LEDと同じ場所に取り付けられたフォトダイオードが反射光の強さの変化を検知するようになっている。Podium Aerospaceの技術担当副社長のHarold Baird氏は「音波を解析する必要のない単純なソリューションである」と述べている。
RMSセンサーはエンジンの全自動デジタルエンジンコントロール(FADEC)システムやエンジン指示乗員警告システム(EICAS)と接続され、これによってリアルタイムに着氷を防止するためにガイドベーンを暖めるための気流を増やしたり、可変ブリードバルブを開いたりすることができる。
Podium Aerospaceによると、2つのLEDを用いることによって、周囲の明るさが様々な場合の較正を柔軟に行うことができ、システム全体としてガイドベーンその他のエンジン部品の近くに装置を取り付ける必要がないという。
Baird氏は、このシステムそれ自体は、実質的にエンジンの性能に影響を及ぼさず、「我々が使用するLED及びフォトダイオードは、それぞれ直径が約3ミリメートルであり、0.5インチ程度の窓からエンジン内部を覗くことができる」と述べている。
また、Baird氏は、既に試作品によって着氷状態を模擬した状況で反射率の変化の検知に成功しており、「より詳細な試験を行うとともに、次のステップとして上空における試験及び特殊風洞試験を計画している」と述べている。 (Aviation Week 160824)