ADOT 39-05 | 高高度での「異常姿勢からの回復」でアイスクリスタルに再び関心

2013年10月20日、速度計の表示が信頼できなかったために、ニューアーク発ダブリン行きのユナイテッド航空のボーイング757-200型機が急降下を行う重大インシデントが、発生した。この重大インシデントでは、副操縦士が失速したと誤解して行った2回の機首下げ操作により、13人の乗客及び4人の客室乗務員が軽傷を負い、速度の超過によって航空機の表面及び3系統のうち1系統の油圧系統が損傷した。速度計の表示に不具合が生じた原因は、右弦側のピトー管に入り込んだアイスクリスタルによって加熱器及び排水系統が破損したことであると推定されている。

この重大インシデントは、アイスクリスタルが存在する高高度の大気中を飛行する場合のピトー管の性能に疑問を投げかけている。

2015年1月以降に証明された輸送用航空機のピトー管は、当該重大インシデントが発生した高度23,500フィート、気温-37℃の環境を含む、アイスクリスタルが存在する対流性の雲の中でも正しく機能することが求められているが、それより前に証明された航空機用のものには、このような要件は課されていない。

アイルランド航空事故調査機関(AAIU)は、5月10日に公表した重大インシデント調査報告書において、ボーイング757型機の設計に責任を有する連邦航空局(FAA)に対して、2015年1月より前に証明された航空機の「ピトー管の防氷系統に安全上の欠陥があるかどうかについて調査する」ことを勧告している。

ピトー管を詰まらせるアイスクリスタルの問題は、2009年6月に発生したリオ・デ・ジャネイロ発パリ行きのエールフランスのエアバスA330-200型機の墜落の後に、より注目されるようになった。この航空事故は、アイスクリスタルに起因すると考えられる副操縦士及び機長の速度計の指示の一時的な不整合によって、最終的にパイロットが失速を誘発し、機体が操縦不能に陥ることに繋がる一連の問題が発生したと考えられている。

ユナイテッド航空機の重大インシデントと同様に、エールフランス機のパイロットも、問題が発生する前に「セントエルモの火」(放電による発光現象であり、アイスクリスタルの存在の可能性を示す)を見ていた。

また、AAIUは、エアバスA321型機及びボンバルディアCRJ700型機において高高度のアイスクリスタルによって計器表示が消失した事案を引き合いに出しており、カナダ運輸省は2015年4月に耐空性改善命令を発行し、CRJの全てのシリーズの飛行規程に航空機の速度及び高度を安定させるための手順を加えることを求め、ボンバルディアは速度計が信頼できない場合の緊急手順を設定している。

FAAに対するピトー管に関する勧告は、重大インシデント調査報告書に記載された8件の勧告のうちの1つであり、重大インシデントの推定原因として次の2点が記されている。

・右側の主ピトー管がアイスクリスタルの着氷によって一時的に閉塞したことにより、副操縦士側の速度計が低い値を指すことに繋がったこと。

・パイロットが表示された速度が低い場合の対処を適切に行わなかったこと。

また、機体が乱気流に遭遇した直後に速度の表示が低下したため、副操縦士が驚いたことが重大インシデントの発生に関与したと推定されている。

副操縦士が調査官に語ったところによると、乱気流に遭遇した後、副操縦士側の速度計の表示が(失速していると考えられる)約90ノットまで低下したため、副操縦士は自動操縦装置及び自動推力調整装置のスイッチを切ることなく、また、機長に注意喚起することもなく、直ちに操縦桿を前方に倒し、推力を最大にしたとう。速度が増加したため、機首を上げ始めたところ再び速度が低下したため、2回目の機首下げ操作を行い、その後、機長側の速度計の表示が正しいと判断して機体を水平に戻したとのことである。

飛行記録装置(FDR)のデータによると、機体には降下開始時に最大-0.36G、引き起こし時に1.72Gの加速度がかかっており、座席ベルトを装着していなかった乗客及び客室乗務員が負傷する原因の一部となった。また、最初の急降下においては、速度は300ノットから最大380ノットまで増加し、降下率は最大12,000フィート/分であった。

さらに、ボーイング757型機の証明された限界加重はかからなかったものの、約50秒間にわたる2回目の急降下中の最大巡航速度(350ノット)を超える速度及び素早く変化する加速度によって、胴体下面の中央油圧系統の点検用区画の扉が破損し、中央油圧系統そのものも損傷を受け、作動油が流出した。機体の翼胴フェアリングも損傷を受けた。

ユナイテッド航空には、次のような勧告が行われている。

・気象レーダーの使用に関するガイダンスの見直し(乱気流を引き起こす対流性の気象は、気象レーダーを適切に調整することによって検知することが可能)

・「信頼できない」速度計に係る訓練の見直し(対処する前に機長側及び副操縦士側の速度計を確認するための手順)

・特に「異常」な操作を行う場合の標準的なコールアウトを用いることの重要性についてのパイロットへの周知

また、副操縦士の報告によると、機体がダブリンに到着した後に、当局から操縦室用音声記録装置(CVR)及びFDRのサーキットブレーカーを抜くよう指示されたが、副操縦士は混乱し、CVRのサーキットブレーカーを抜かなかったという。このため、録音可能時間が2時間であるCVRに記録された事案発生時の音声は、上書きされていた。

当局の要請がある場合に航空事故又はインシデントの情報を保全することは国際民間航空機関の標準で求められているところ、ユナイテッド航空の運航規程はCVRのデータを航空事故及びパイロット以外の航空会社の職員が認めた場合にのみ保全するように解釈できることから、ユナイテッド航空には、運航規程の見直しについての勧告も行われた。

ボーイングに対しては、757型機の「速度計表示の不一致」に関する注意喚起(音が鳴るとともにグレアシールドに取り付けられたマスターコーションランプが点灯し、中央のディスプレイに文字が表示される。)の「有効性」を再評価すること等が勧告された。

ユナイテッド航空の手順では、まずピッチ角及び推力を確認し、その後に速度計の相互確認を行うことが求められている。

AAIUは、「副操縦士が速度計の表示が急に低下したことに気付いたものの、機体の姿勢には大きな変化はなかった。このことは、機体が異常姿勢に陥っていたり、失速していたりすることを示すのではなく、速度計の表示が信頼できないことを示している」が乱気流、速度の低下及び誤った速度に対処するための自動推力調整装置による推力の増化等の複数の要因が、副操縦士に機体が異常姿勢に陥っているか、失速しかけていると思わせたかもしれないとしている。

(Aviation Week 160520)